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プーさんは時と場所を選ばず [ニジマス]

【2014年7月某日】

自宅から車で1時間とかからない小渓流のO川にニジマス釣りに出かけました。


私にとってその川は、「お手軽なニジマスの川」と位置づけていたせいか
その日も緊張感が欠けていて、思いっきり寝坊してしまいました。
さらに家の雑用を済ませてから出発したので、川に到着した時はもうお昼。
快晴で気温は30℃近く、蝉も絶好調で合唱していました。


ウェーダーとシューズを履いた時点でもう汗がじっとり。
ルアーの時は釣り上がりがセオリーではありますが、蒸し暑さに負けて楽な釣り下がりを選択。
なまけものアングラーの鏡ですね。


入渓したA橋から下流500mにあるB橋まで瀬が点在していますが、大場所といえる
ポイントはB橋のすぐ下に一か所あるのみ。
案の定、この時も攻めども攻めども、時折おチビちゃんが追ってくるだけで
B橋に到着したときの成果が、スプーンにヒットした20cmの1匹だけでした。


「アッチー…こんな時間は誰がやっても釣れないよね」


己が犯した寝坊というミスのせいなのに、ノー天気ななまけものアングラーは
陽射しを避け橋の真下で腰を下ろし、一服するのでした。


「あそこを攻めたら撤収しよう」


「あそこ」とは橋から20m下流にあって、山肌が露出しており、その崖にぶつかった川が
どんよりしたプールを形成して、右に90°カーブしている本命ポイントでした。


函状になったそのカーブを攻めるには、カーブの内側に張り出した岩が垂直に切り立っている
角の突端の足元に、わずかに堆積している砂に立つのが最適です。
そこまで行かないとカーブの先すら見通せません。


さすがに美味しいポイントを目の当たりにすると釣り人の性でしょうか、
なまけものにも気合いが入ります。
立ち上がり、ラインを結び直してこの日一番重い10gのスプーンを付けました。



ソワソワしながら突端に近付き、プールを覗き込みながらそこに潜む大物を想像します。
さらに近付きプールから目線をすぐ目の前の砂に移したときでした。
足跡のような凹みができています。


「あ~もう先に釣り人が入っていたのかぁ」


半ばがっかりして砂の上に立ち見下ろすと、凹みは丸くて人の足跡とは違うようです。
良く確認しようと、屈み込むその瞬間に気付きました。


「これ、ク、熊だ」


屈むのを止め立ちすくみ、ゾワ~っと背筋が冷たくなります。


初めてではないんです。渓流釣りをしていると、熊の足跡なんかは結構な頻度で遭遇しますから。


けどこの時の足跡は違いました。
赤茶けた粒子の細かい砂につけられた足跡のくぼみには、濁った少しの水が
今まさに浸み出している最中だったんです。
今さっき踏みしめられたばかり…


『パキッ』


その時、枝が折れる乾いた音がしました。
角に立ったことで見通せるようになったカーブの先、対岸の笹やぶの中から。

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居ます。出ました。
プーさんの登場です。


距離は20mくらいだったでしょうか。こっちを向いた顔だけがひょっこりと
胴体は笹に隠れて見えません。


こんなに近くで遭遇したのは初めてです。
しかも1対1、タイマン。こっちはロッドとランディングネットくらいで丸腰です。
あ、もちろんプーさんも丸腰ですが…


子熊のサイズではなかったと思います。
目が合った瞬間は頭が真っ白になりましたが、すぐに爆竹を持っていたのを思い出しました。
ベストのポケットから爆竹とライターを取り出します。


「火…火…あ~もうっ」


焦るなと言うほうが無理ですね。力むほど手が震えて火を点けられませんでした。
それも例えば「寒くてガタガタ」なんてものじゃなく、「ガッタンガッタン」震えるんです。
身体が、本能が理解するんですね。自分はアイツの餌であり玩具でしかないんだと…


『ザザザー!ドドドー!』


「ヒッ…」


…幸い、熊が走り出したのは私のほうではなく、逆の山へ向かってでした。
ちびりそうな顔をしていたであろう私を残して、あっという間に姿を消してしまいました。


ひょっとすると、熊はさっきまで私が一服していたあの同じ橋の下で涼んでいたのかもしれません。
上流から近付く人間の気配に気付き、下流へ移動していったところへ私が追いついたとも考えられます。


そのあと私はすぐその場を離れ、何度も何度も角の突端からプーさんが
顔を出さないよう祈りながら振り返り、橋まで戻って、爆竹が無くなるまで鳴らし続けながら
道路を足早に歩いて車まで辿り着きました。


真夏の真昼間に、道路のすぐ脇ともいえる場所で出くわすなんて…
川歩きの師匠は「熊は真夏になると夜しか動かんよ」って言ってたんですけどねぇ。



この日以来、近場のお手軽な川であるにも拘らず、O川には行く気になりません。
これが自分が自然の中ではウサギかそれ以下の、臆病なイキモノなんだと気付いた
日の出来事でした。

※画像は別の場所で撮影したものです。
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《おわり》

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デカニジは三味線を弾く? [ニジマス]

【2007年7月某日】

週末ごとに良型のニジマスと遊べた6月が過ぎ、水位が下がり水もぬるんだ7月。
大河T川の支流であるN川に出掛けました。

朝マズメに深場を狙ったものの結果が出ず、陽射しがジリジリと熱を持ちだした7時頃、
私は川に立ち込んだままポイント移動を考えていました。


>N川は中規模の渓流で、警報レベルの大雨が降らない限り水質はいつもクリアです。
上流にダムは無く、生息するニジマスやヤマメやアメマスの餌となる水生昆虫も豊富で
私のお気に入りの川です。シーズン中は何度も足を運んでいました。

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車に戻り移動した先は瀬でした。

100mほど藪コキして川原に降り立ち、身体に付いた朝露とクモの巣を拭いとりながら
深呼吸して初夏の清々しい空気を吸い込みました。

その瀬は川幅が20mくらいで、瀬の中にはヤマメが陣取っていて、
その少し下流では小型のニジマス、浅瀬は新仔のヤマメがいて…
でもこの日に狙っていたのは、6月に手が届かなかった60cmを超えるニジマスです。

長くはない瀬はやがて幅を狭め、対岸にぶつかって生い茂る草を浸食しています。
そこには倒れかかっている川ヤナギの木があり、枝が水面を覆っているまさにその場所。

デカニジの雰囲気はムンムンしてはいますが、時期と時間を考えると…んーどうでしょう。

しかしそれは1投目でした。

バルサ製50mmのシンキングミノーをヤナギの上流3mのところにキャストします。

ヤナギは枝が柔らかく水流に負けてしなるので根がかりを気にせず
遠慮なくミノーをドリフトさせながら沈めていきました。

スロー気味に、チョン・チョン・スー・チョン・チョン・スーと2回繰り返し誘います。
直後、

トンッ

川底の石にでも挟まったようなアタリ?

とりあえず手首を返す程度にアワセをいれてやりました。
するとスーッと下流に移動するライン。重さはそれほど感じません。

「なんだヒットしたのか…30cmくらいかな?」

そして下流の対岸に向かって走り出します。少し加速しながら…
私も追いながら下流に移動。

「いやいや、40はあるな」

対岸のボサ下に達し一時停止。すぐにひるがえし今度は岸に沿って上流にゆっくりと動きます。
やがて元々隠れていたであろうヤナギ付近まで近付いてしまいました。

主導権は相手側にあります。


>ロッドは長めの7.7ft。50cm前後のニジマスには力負けすることもありましたが、
使っていて楽しい柔らかめのロッドです。


ヤナギと密集した草の下に潜り込まれたらやっかいです。
ロッドを真横に寝かせてアオリ、引きはがしにかかります。

スプールを押さえ、グーーーッと力を加えていきました。
6lbのラインが糸鳴りを始めます。すると…

フワッ

いきなりテンションが抜けてしまいました。
張っていたラインが力無く水に落ちます。

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「ありゃりゃ、バレたか?」

それもつかの間、水面に落ちたラインが弧を描き始めました。

「まだいた!」

ヤナギの手前でまた下流に走り出していたのでした。
ラインを巻きながら相手との距離を詰めるため、私は川原から水中に立ち込みます。

そいつは私の10m先、水深1mの川底付近にいます。まだ目視はできません。

「賢いな、50upか、よし!」

さらに一歩踏み出しました。
私の存在に気付いたのか、直後からのファイトは私の冷静さを吹き飛ばすものでした。

ジャンプ、ジャンプ、突っ走り、首振りのオンパレード。
ドラグは金属音のように鳴り響き、浅瀬を右へ左へ走らされた私は頭からビチョビチョになっていきます。


……。
何分経ったかは分かりません。時間感覚なんてアドレナリンが溶かしてしまいました。

ヒットした場所から50m下流で、私とそいつは3mの距離にいます。

「でけー!ふとー!」

背中のネットを左手に、右手はロッドを高く掲げ寄せにかかります。

ネットインはあっけなく成功。

でもその瞬間に口からピョコンとミノーが外れました。
細軸のシングルフック。2本とも90度近く伸びています。ギリギリでした。

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ワニ顔のニジマス♂で62cmでした。

その後このニジマスは、速やかに水の中で回復させてからリリースしました。


これが私が初めて60cmを超える野生のニジマスを釣る事が出来た日のことでした。

それまでのニジマスとは全く異色なファイトがとても印象的で、
狡猾で獰猛な文句なしのファイターでした。

《おわり》

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